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FL StudioでMS分割 ~FL Stereo Shaperを使った分割方法と仕組み~

■はじめに
先日ちょっと興味があって、FL Studioを使ったMS分割について調べてみました。
Fruity Stereo Shaperを使った方法なんですが、あんな小さいナリしてなかなか奥深いツールだという事がわかりました。
MS分割の原理も分かったので、備忘録を兼ねてココに書いておきます。

尚、この記事は、FL Studioをある程度使いこなせる人を対象にしています。
MIXERパネルの取り扱いや信号の取り回し方法など、細かい使い方については言及しません。
FL Studioの詳しい使い方について知りたい方は、FL Studio@ウィキがオススメです。
僕がFruity Stereo Shaperの使い方を理解する上でも、Fruity Stereo Shaperのマニュアル翻訳には非常に助けられました。
翻訳された方に感謝。

■MS信号分割の方法
先に、ザックリとやり方だけ書きます。
図1のようなシグナルフローを作ります。

図1.MS分割シグナルフロー
FL Stereo Shaperシグナルフロー

◆MIXERトラックの準備
MIXERパネルで、トラックを4つ用意します。
以下4つの信号用です。
括弧書きは、この記事内でのトラック番号とトラック名です。
もちろん、番号も名前も好きにして貰って構いません。
・Mid信号用 (Track2 Mid)
・Left信号用(Track3 Left)
・Right信号用(Track4 Right)
・MS合流用(Track1 MS Mix)

<Track2 Midの設定>
・Track2の信号出力先をTrack1(MS Mix)だけにします(Route to this track onlyに設定)。
・Track2からTrack3(Left)へサイドチェイン信号を出せるようにします(Sidechain to this trackに設定)。
・Fruity Stereo Shaperをロードします。
・Fruity Stereo Shaperのプリセットから「Mid - aSide splitter」を選びます。
・Fruity Stereo Shaperパネル右下の「IN/OUT DIFFERENCE」セクションで小窓を右クリックして、出力先にTrack3(Left)を選びます。
・トラックパンはセンターにしておきます。

<Track3 Leftの設定>
・Track3の信号出力先をTrack1(MS Mix)だけにします(Route to this track onlyに設定)。
・Track3からTrack4(Right)へサイドチェイン信号を出せるようにします(Sidechain to this trackに設定)。
・Fruity Stereo Shaperをロードします。
・Fruity Stereo Shaperのプリセットから「Left - Right splitter」を選びます。
・Fruity Stereo Shaperパネル右下の「IN/OUT DIFFERENCE」セクションで小窓を右クリックして、出力先にTrack4(Right)を選びます。
・トラックパンは100%左に振っておきます。

<Track4 Rightの設定>
・Track4の信号出力先をTrack1(MS Mix)だけにします(Route to this track onlyに設定)。
・トラックパンは100%右に振っておきます。

◆2mix音源の読み込みとルーティング
MSを分割したい2mix音源をプロジェクトにロードします(これがソース音源)。
読み込んだソース音源を、Track2(Mid)にルーティングします。

以上の操作で、2mix音源がMid/Left/Rightに3分割されるシグナルフローの完成です。
Mid、Left、Rightそれぞれのトラックで処理された信号は再びTrack1(MS Mix)で合成されて、そのままマスタートラックへパスされます。
MS処理後の合流信号に対して何か処理を行いたい場合は、Track1(MS Mix)にエフェクターを挿します。

■分割の仕組み
ここからは、Fruity Stereo ShaperがどのようにしてMSを分割したのかについて考察します。

注:この記事における表記の意味について
"M"=Mid。両方のチャンネルに等しく含まれる音。
"L"=Left。左のチャンネルにしか含まれない音。
"R"=Right。右のチャンネルにしか含まれない音。
"+"=正相。入力と同じ位相であることを表す。
"-"=逆相。入力に対して逆相であることを表す。
"1.0"と書いた係数は、入力に対する倍率。

"+1.0M+1.0L"は、「入力と同じ音量の正相波形を持ったMid成分とLeft成分」という意味。
"-0.5L-0.5R"と書いた場合は、「入力の半分の音量の逆相波形を持ったLeft成分とRight成分という意味。


◆ソース音源の成分分析
ソース音源(入力)は、以下の様な成分から成り立っています。
左ch:+1.0M+1.0L
右ch:+1.0M+1.0R

この入力をFruity Stereo Shaperがどのように処理をしたかを見ていきます。

◆1段目Fruity Stereo Shaperの出力
Fruity Stereo Shaperの「Mid - aSide splitter」プリセットは、以下の様な内容の設定です(図2)。
左ch:入力から-6dbし、右chから6dbぶんクロスミックスする。
右ch:入力から-6dbし、左chから6dbぶんクロスミックスする。

図2.Mid - aSide splitter
Mid - aSide splitter

これを先ほどのように演算式で表現すると、以下のようになります。
左ch:①(+1.0M+1.0L) * 0.5 + ②(+0.5M+0.5R) = ③処理結果
右ch:①(+1.0M+1.0R) * 0.5 + ②(+0.5M+0.5L) = ③処理結果
注:①=入力、②=クロスミックス、③処理結果
あと、波形は-6dbで振幅半分なので、係数は0.5となる。


この合成の結果は、以下のようになります。
左ch処理結果:+1.0M+0.5L+0.5R
右ch処理結果:+1.0M+0.5L+0.5R

計算の結果から分かるように、「Mid - aSide splitter」プリセットを通すと出力は左右全く同じ音になります。
Mid信号はモノラルMIXされた音ですが、その正体は「左ch右chそれぞれにMid成分全体とLeft成分Right成分が半々に含まれた信号」ということです。

◆1段目Fruity Stereo Shaperのサイドチェイン出力
Fruity Stereo Shaperのサイドチェイン(以下SC)からは、処理前と処理後の信号の差分が出力されます(マニュアルより)。
という事は、出力される信号は「(処理前) - (処理後)」という式で求められることになります。
先ほどまでの経緯により、
<処理前=入力>
左ch:+1.0M+1.0L
右ch:+1.0M+1.0R
<処理後=出力>
左ch:+1.0M+0.5L+0.5R
右ch:+1.0M+0.5L+0.5R

でしたから、SC出力される信号の内容は以下のようになります。
左ch:①(+1.0M+1.0L) - ③(+1.0M+0.5L+0.5R) = ④SC出力
右ch:①(+1.0M+1.0R) - ③(+1.0M+0.5L+0.5R) = ④SC出力

この演算の結果は、以下のようになります。
左ch SC出力:+0.5L-0.5R
右ch SC出力:-0.5L+0.5R

演算の結果より、SCに出力される信号は左右ともにMid成分が無く、完全にSide成分のみで構成されていることが分かります。
また、左右それぞれのチャンネルには、逆側のチャンネルを打ち消す波形(逆相波形)を含んでいることも分かります。

因みに、この左右チャンネルの波形を合成した場合、Left成分とRight成分が互いに打ち消し合うので、無音になります。
興味のある方は、試しにTrack3(Left)に挿したFruity Stereo Shaperをミュートしてから、Track3(Left)のパンを左右に振ってみてください。
パンポッドがセンターから離れるに従って(左右の信号が合成されるに従って)、音が小さくなっていくのが分かります。

◆2段目Fruity Stereo Shaperの出力
2段目の出力は、1段目よりもはるかに単純です。
Fruity Stereo Shaperの「Left - Right splitter」プリセットは、以下の様な設定です(図3)。
左ch:何もしない。
右ch:ミュートする。

図3.Left - Right splitter
Left - Right splitter

出力は、以下のように表現できます。
左ch:①(+1.0M+1.0L) * 1.0 = ③(+1.0M+1.0L)
右ch:①(+1.0M+1.0R) * 0.0 = ③(0.0M+0.0R)
注:①=入力、③処理結果

わざわざ書く必要も無いくらい自明ですが、Track3(Left)からは左のチャンネルからのみ音が出ます。

◆2段目Fruity Stereo Shaperのサイドチェイン出力
SCへ出力は「(処理前) - (処理後)」という数式で求めるので、左右それぞれ以下のようになります。
左ch:①(+1.0M+1.0L) - ③(+1.0M+1.0L) = ④(0.0M+0.0L)
右ch:①(+1.0M+1.0R) - ③(0.0M+0.0R) = ④(+1.0M+1.0R)
注:④SC出力

上記の演算からも分かるように、2段目FL Stereo ShaperのSCへは、ミュートした右chの信号がそっくりそのまま出力されます。
これがTrack4(Right)へ送られているので、Track3(Left)とTrack4(Right)の2トラックを使って、左右のチャンネルを分けたことになります。

◆MS合流トラック
MS合流トラック(Track1 MS Mix)へは、分割したMid信号、Left信号、Right信号の全てが流れ込んで来て、ここで再合成されます。
Mid、Left、Right信号の構成はこんな内容でした。
<Left信号>
左ch:+0.5L-0.5R
右ch:なし(パンが100%Leftなので)
<Mid信号>
左ch:+1.0M+0.5L+0.5R
右ch:+1.0M+0.5L+0.5R
<Right信号>
左ch:なし(パンが100%Rightなので)
右ch:-0.5L+0.5R

Left信号どうし、Right信号どうしを全て合成すると、元の信号に戻ります。
左ch:Left(+0.5L-0.5R) + (+1.0M+0.5L+0.5R) = (+1.0M+1.0L)
右ch:Right(-0.5L+0.5R) + (+1.0M+0.5L+0.5R) = (+1.0M+1.0R)

■以上
勤務中、マニュアルを読みながら6時間ほどかけて整理した、MS分割の方法と理屈でした。



■(オマケ)Fruity Stereo Shaperを使わないやり方
概要だけ書くと、こんなやり方です。

①MS分割したい音源の2mixを、以下3つの形で書き出します。
・モノラル出力音源 (以降、"Mono")
・左chだけ出力した音源 (以降、"Left")
・右chだけ出力した音源 (以降、"Right")

②Rightをインバート(位相反転)してLeftと合成します。(以降、"L-R")
ここでRightとLeftは用済みです(消しちゃってOK)。

③L-Rを複製してインバートします。(以降"inverted L-R")

④Monoをセンターに、L-Rを左に、inverted L-Rを右に定位させます。
3つの音源を同時に再生すると(合成すると)、元の音源に戻ります。

この理屈は、以下のように表現できます。
①3つの音源
<元の2mix>
左ch:+1.0M+1.0L
右ch:+1.0M+1.0R
<Mono>
左ch:+1.0M+0.5L+0.5R
右ch:+1.0M+0.5L+0.5R
<Left>
左ch:+0.5M+0.5L
右ch:+0.5M+0.5L
<Right>
左ch:+0.5M+0.5R
右ch:+0.5M+0.5R

②RightをインバートしてLeftと合成
<インバートしたRight>
左ch:-0.5M-0.5R
右ch:-0.5M-0.5R
<L-R(Leftとの合成結果)>
左ch:(+0.5M+0.5L) + (-0.5M-0.5R) = (+0.5L-0.5R)
右ch:(+0.5M+0.5L) + (-0.5M-0.5R) = (+0.5L-0.5R)

③L-Rを複製してインバート
<inverted L-R(L-Rをインバートしたもの)>
左ch:(-0.5L+0.5R)
右ch:(-0.5L+0.5R)

④Mono(センター)、L-R(左)、inverted L-R(右)合成
左ch:(+1.0M+0.5L+0.5R) + (+0.5L-0.5R) = (+1.0M+1.0L)
右ch:(+1.0M+0.5L+0.5R) + (-0.5L+0.5R) = (+1.0M+1.0R)

上の演算で、左に100%定位させたL-Rは右chの合成式に項として現れません。(右chから音が出てないので。)
右に100%定位させたinverted L-Rが左chの合成式に現れない理由も同様です。
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一譲 計

Author:一譲 計
FL使いのDTMer。テンションが上がると音圧が下がります。
空想的・幻想的なモチーフが好き。オーケストラを多用します。
デジタルお絵描き初心者です。2015年の暮れから練習を始めました。
楽曲はWebサイトからご案内しております。

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